屋外レジャーでご用心! 最大致死率 30%の感染症を媒介する吸血鬼の影!
もうすぐ春ですね。森林浴、美味しい空気、キャンプやバーベキュー、などなど屋外レジャーが楽しい季節がやってきました。まさに自然を満喫したい季節です。想像するだけでワクワクしてきますね。しかし、感染症対策の観点からは、自然あふれる場所は、注意が必要。そこには、小さいけれど恐ろしい生物が生息しているかもしれないからです。 大自然では「殺人ダニ」にご用心! 大自然の中では、通称「殺人ダニ」と呼ばれるダニの存在は軽視できません。正しくは、マダニといいます。マダニは春から秋にかけて増殖、まさに、これからがシーズン。 (By Photo by Scott Bauer. – This image was released by the Agricultural Research Service, the research agency of the United States Department of Agriculture, with the ID k8002-3 (next).,) マダニが「殺人ダニ」と呼ばれる理由は、 マダニに咬まれることで、致死率の高い「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」を発症する場合がある から。ダニというと、家のカーペットなどに潜むダニをイメージする人が多いと思いますが、屋内に生息する種類は「屋内塵性ダニ類」と総称され、そのうち7~9割は「ヒョウヒダニ類」という種類。「ヒョウヒダニ類」は、人間のアカやフケ、ホコリなどを餌に増殖、大量発生するとアレルギー性皮膚炎の原因になりますが、人を咬むことはありません。屋内のダニでも、「ツメダニ」「イエダニ」の2種類は人を咬み、かゆみを伴う発疹の原因になりますが、病気を媒介したりはしません。しかし、マダニは動物や人間に咬みついて吸血、その血を餌とすることで生きながらえます…そのためマダニは、山、公園、草むら、畑、あぜ道、庭、野生動物の体表、といった自然が比較的豊かな場所に潜みながら寄生する動物や人間を待ち伏せているのです。そして、一度寄生すると、満腹になるまで数日にわたって吸血することも…。その際に、致死率の高い「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」に感染してしまうことがあるのです。もちろん、すべてのマダニが「SFTS」ウイルスを保有しているわけではありませんが、国立感染症研究所が2013~2015年に全国26の自治体のマダニの「SFTS」ウイルス保有状況を調査したところ、 植物に付着したマダニの保有率 : 7~16%野生のシカに寄生したマダニの保有率 : 44% という結果。植物でも決して油断できない確率ではあるものの、野生動物に寄生するマダニについては、植物付着の約3倍~7倍という結果でした。 マダニが生息する地域は これまで「SFTS」症例の届け出が報告されているのは、西日本が中心で397例でした。 国立感染症研究所SFTS症例の届出地域(2019年1月30日時点) 宮崎県(61)、鹿児島県(39)、山口県(37)、広島県(35)、高知県(34)、愛媛県(28)、長崎県(26)、徳島県(25)、和歌山県(18)、大分県(14)、熊本県(13)、島根県(13)、福岡県(12)、岡山県(7)、三重県(7)、京都府(6)、香川県(6)、佐賀県(6)、兵庫県(3)、石川県(2)、福井県(2)、大阪府(2)、沖縄県(1)しかし、同研究所の調査によると、症例の届け出があった自治体に限らず、全国的に「SFTS」ウイルスを保有するマダニが分布していることが分かっています。また、同研究所が2007~2015年に全国28の自治体で捕獲されたニホンジカを調査したところ、症例の届け出があった自治体に限らず、全体の24%のシカが「SFTS」に感染していたということも分かりました。ただし、症例の届け出があった自治体のニホンジカの感染率が37%であったのに対し、症例の届け出がない自治体のニホンジカの感染率は8.4%と大きな差があったといいます。つまり、野生動物と人間の生活圏が重なっている地域で特に感染リスクが高いことが示唆されたのです。 SFTSの症状と致死率は? これまで国内では、397人の「SFTS」感染症例が報告され、65人の方が亡くなっています。患者の年齢の中央値は74歳であり、高齢者への感染事例が多く見られます。「SFTS」ウイルスに感染すると、6日~2週間の潜伏期間を経て、下記のような症状が現れます。 主症状…発熱、食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛その他症状…頭痛、筋肉痛、意識障害、失語、リンパ節腫脹、皮下出血、下血 治療法は対症療法のみで、有効な薬剤やワクチンはありません。 致死率はなんと、6.3 〜 30%! 患者の10人に3人が亡くなる可能性のある、大変恐ろしい病気なのです。 マダニはSFTS以外の感染症も媒介 マダニは、「SFTS」以外にも、以下のような感染症を媒介することがあります。 ダニ媒介性脳炎(シベリア亜型)(輸入のワクチン接種で予防、対症療法)・潜伏期:7~14日・症 状:頭痛、発熱、悪心、嘔吐(末期:精神錯乱、昏睡、痙攣、麻痺)・予 後:致死率20%以上 回帰熱 (抗菌薬あり)・潜伏期:5~15日(平均8日)・症 状:発熱期と無熱期を数回繰り返す(発熱期症状:発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、関節痛、羞明、咳/無熱期症状:発汗、倦怠感、低血圧症、斑点状丘疹)・予 後:治療を行わない場合、致死率は最大30% 日本紅斑熱(紅斑熱群リケッチア症)(抗菌薬あり)・潜伏期:2~8日・症 状:頭痛、発熱、倦怠感・予 後:死亡することがある ライム病 (抗菌薬あり)・潜伏期:3日~16週(通常1~3週)・症 状:遊走性紅斑、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感・予 後:死亡することがある 野兎病 (抗菌薬あり)・潜伏期:1~7日・症 状:悪寒、発熱、リンパ節腫脹、筋肉痛、関節痛、嘔吐(菌の侵入部位による)・予 後:死亡することがある マダニに咬まれないようにするためには 感染予防には、マダニに咬まれないようにすることが何よりも大切。自然豊かな場所に出かけるときは、下記の対策をしましょう。 肌の露出を少なくする…首にタオルを巻くか、ハイネックのシャツを着用し、シャツの袖口は手袋の中に、ズボンの裾は靴下をかぶせるようにしましょう。虫よけ剤を使用する…マダニ除けとして2種類の虫よけ剤(ディート、イカジリン)が市販されています。ただし、マダニの付着を完全に防ぐことはできないので、その他の対策と併用することが大切です(※用法、用量、年齢制限に注意して使用しましょう) もしマダニに、咬まれてしまったら… 万全な対策をしていたつもりでも、マダニに咬まれてしまう可能性はあります。野外活動後はすぐにシャワーや入浴をして、マダニが付着していないかチェックしましょう。マダニに咬まれやすいカラダの部位は、 わきの下足の付け根手首膝の裏胸の下頭部(髪の毛の中) といった部分で、比較的、皮膚のやわらかい部位が多く挙げられます。また、マダニは家にいるダニと比べて大きく、肉眼で確認することができます。その大きさは、なんと! 通常時の成虫の体長 : 3~8mm吸血後の成虫の体長 : 10~20mm にもなります。もし、マダニに咬まれた場合は、無理やり除去しようとしないでください。吸血するために咬み付いたマダニは、セメント物質を分泌して固着し、その後、麻酔様物質の含まれた唾液を分泌し吸血します。セメント物質で固着したマダニは除去しづらくなり、皮膚科での処置が必要となる場合も…マダニに咬まれていることに気づいたら、最寄りの皮膚科や外科を受診し、除去してもらいましょう。自分で除去しようとすると、虫体の一部が残ってしまったりする場合があり、あとから炎症や病気を発症する原因になります。 また、「SFTS」ウイルスは、患者の体液からも感染します。過去には、「SFTS」に感染した猫に咬まれた50代女性の死亡事例や、飼い犬から感染した40代男性の事例もあります。自分がマダニに咬まれないよう注意するだけでなく、ペットのマダニ対策も重要です。屋外レジャーにお出かけの際は、万全なマダニ対策を実施したうえで全力でレジャーを満喫してください。 (監修:防衛医科大学校 防衛医学研究センター 広域感染症学・制御研究部門 加來浩器先生) 参照URL 東京都感染症マニュアル2018マダニ対策、いまできること(国立感染症研究所)SFTSウイルスの国内分布調査(第三報)(国立感染症研究所)日本紅斑熱とは(国立感染症研究所)ライム病とは(国立感染症研究所)回帰熱とは(国立感染症研究所)ダニ媒介感染症(厚生労働省)マダニQ&A(東京都健康安全研究センター)ダニの生態・種類(アース製薬)マダニ感染症、ペット媒介の症例報告 岡山で合同学会(朝日新聞DIGITAL)
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