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疫学入門 ~ 防衛医科大 加來先生インタビュー ~
(本稿は、2022年6月のインタビューをもとに制作しています)過去に例を見ない拡大を見せ、2年以上経った現在もなお世界がその渦中にあるコロナ禍。その副産物として、感染症やウイルスについて世間の見識が深まり、また、除菌・抗菌について急速に意識が高まりました。同様に、注目されることが多くなった学問があります。それが、「疫学」。疫学とは…明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれらに影響を与える要因を明らかにして、健康関連の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学 と定義付けられています。感染症の脅威から自分自身と周りの大切な人を守るためには、集団の中でどのような防御策を採ることができるのかを知っておきたいもの。それを判断するために、疫学の知識は非常に有用です。今回は、疫学について分かり易く整理してお伝えするべく、感染症対策をご専門にしておられる防衛医科大学校の加來先生にお話を伺ってきました。 —— 最近では海外からの入国者数を2万人/日に緩和されたり、屋外ではマスクは不要とされたりなど、一時期に比べて感染対策に変化が出てきているように見えます。一方で新たな変異株による置き換わりなのか感染者数が再び増加して第7波に移行したとも言われています。このようなときに改めてどのような点に注意すべきでしょうか WHO Coronavirus Dashboard 2022/07/15 変異株のせいなのか今年になってからの新型コロナは、感染しても肺炎や重篤な全身症状を起こすことは少なくなりました。しかし現行の国内法では、感染した場合は一定期間の隔離状態となるし、その濃厚接触者も健康観察のために行動制限を受けます。具体的には、楽しみにしていた旅行や観劇はもちろん、大切な就職の面接や学校の試験、ときには結婚式などの会に参加できなくなります。このように日常生活に大きな支障を来たすわけですから、罹患しないに越したことはありません。いまだから特にというよりも、従来通りの「基本的な対策」を徹底させることが大事ですね。 —— 「基本的な対策」とは、手洗い、マスクの着用、三密(密閉、密集、密接)の回避などですね。さいきん「いったいいつまでマスクを着けてないといけないのか?」というような議論もよく耳にします よく報道されていますね。しかし、「いつマスクを外すべきか」などの議論の前に、「マスクの意義」を理解するべきだと思います。例えば、無症状の人がつけるマスクはいったい何のためなのでしょうか。—— 誰かにウイルスをもらわないための予防でしょうか はい、半分正解です。病院やクリニックで働いている人は、目の前に新型コロナウイルスの感染者がいる可能性が高いので、飛沫感染対策(患者さんからの飛沫から守る)ためにマスクを装着します。しかし「自分が知らない間に無症状の感染者になっていて呼気にウイルスを排出させている可能性がある」という前提に立つとどうでしょう。市中では、なるべく自分の呼気(マイクロエアロゾル)の飛散を抑えるために、マスクが有用なのです。この場合のマスクは、他者への思いやりだと言えるのではないでしょうか。 —— マスクは他者への思いやり…。はっとさせられますね 感染症のイメージは、悲しいかな、昔も現代もあまり変わっていません。不安や恐怖が他者への偏見や差別を生みます。当初は決められた対策に従いますが、やがて不平や不満、さらに無視、無関心といった行動が表れていきます。コロナ禍のような新興感染症であればなおさらです。どうしても他者への配慮や思いやりの気持ちが失われがちです。 —— コロナ禍においても、たくさんの差別や偏見に関する報道がありましたね。医療従事者への差別など心苦しいものも多くありました 無用な差別や虐待の事例は、ハンセン病やHIVなど枚挙に暇がありません。繰り返されている無用な差別によって苦しむ人がいない社会のためには、感染症は正しく恐れなければなりません。 —— 正しく恐れるためには、正しい知識を身に付ける必要があると以前教えていただきました。そのためにも疫学に触れておくことは有益ですね 「疫学」とはどのような学問なのか 画像引用:Wikipediaジョン・スノー先生(パブリックドメイン) —— はじめに、「疫学」とはどのような学問なのかについて教えてください 「疫学」は、疾病を個人としてではなく集団として捉える学問です。その適用の範囲は、医学の域に留まらず、集団のなかで発生する様々な問題や事象を取り扱います。そして、頻度(有病割合、発生率)、分布(地理的、時間的)などの情報を整理し、リスクの範囲や程度を分析し、健康と疾病に影響を与える因子を研究します。感染症疫学では、事例の全体像を把握するために「時」「場所」「ヒト」の「疫学の3要素」を分析します(記述疫学)。そして導き出されたリスク因子と結果(感染)との関連性の強さを検討します(解析疫学)。この2つの疫学的検討から、予防医学へ応用させたり、公衆衛生に反映させたりすることを目標にしています。従来の疫学は感染症を主な研究対象としていましたが、その後、公害や事故などの人災、地震などの天災や、生活習慣病なども研究対象となっています。タバコと肺がんの疫学研究は有名ですので、皆さんもご存じの方がおられるかもしれません。—— コロナ禍では、まさに地域ごとの罹患者数やクラスター発生に際して、疫学の専門家による見立てが頻繁に報じられていました ある一定の期間(時)に、特定の地域・場所(場所)で、特定の集団・グループ(ヒト)において、通常予測されるよりも多くの事象発生することをアウトブレイクといいます。疫学では、前述のとおり「疫学の3要素」を重視しています。新型コロナでは「クラスター」という言葉をよく聞きますが、これは“群れ”とか“塊”という意味ですので、アウトブレイクと同義語と思ってください。クラスター発生の第一報が入ると、まずは真の初発者を検知するようにします。初めて報告された人が必ずしも真の初発者とは限らないからです。そこから潜伏期を遡って行動歴を調査し、感染曝露の機会を突き止めます。そしてその場に居合わせたヒトを掘り起こし、感染していないかどうかを確かめます。このようにして、次のクラスター発生を最小限にとどめるように努めるのです。—— 経済学でいうマーケティングのような役割を担っているのかもしれませんね。コロナ禍では、非常に大きな存在感を感じます コロナ禍初期に、新型コロナ対策感染症対策分科会の尾身先生が、「三密の回避」(三密=密閉、密集、密接)を推奨されていました。いまでも厚生労働省のホームページに掲載されていますが、これは日本のクラスター調査班による疫学調査の結果からで考案されたものです。その後WHOを経由して、Avoiding the Three Cs(closed spaces, crowded place, and close-contact settings)として全世界に広報されていきました。これは疫学による世界貢献といえますね。 —— 非常に大きな成果ですね! 疫学の歴史を紐解く —— 疫学の歴史的背景についても教えていただけますか 疫学の歴史を語るときに、現代疫学の父と呼ばれるジョン・スノー先生の功績を外すことはできません。スノー先生は、1854年にロンドンのソーホーで起きたコレラの大発生において、その原因を追跡し、疫学的調査と防疫活動を行ったことで事態収拾に向かわせた人物です。 —— どのくらいの規模の災害だったのでしょうか 1854年8月末、ロンドンのソーホー地区でコレラが発生しました。最初の3日間でブロードストリート周辺で127人の死者を出しました。9月10日までに500名が死亡、ソーホー地区全体の10%以上の死亡率でした。 —— わずかの間に住民の10%以上が亡くなるとは恐ろしいですね 当時のロンドンは、人口の急激な増加に社会インフラの整備が追い付かず、悪臭の立ち込める街だったといいます。このような環境下でコレラは、イギリス侵入当時(1831年)から空気を伝わる悪臭(瘴気)によって感染すると考えられていましたが、スノー先生は疑問を呈していました。 —— 当初は「空気感染である」と信じられていたと。悪臭漂うなかでは、そう考えてしまう気持ちも分からなくもないですね スノー先生は患者を注意深く観察し、・初期症状は消化器系(激しい下痢、嘔吐)であること・人から人へ伝染していること・発病までに潜伏期間があること・同じ流行地でも患者の出る家が飛び飛びである などの特徴を掴みました。このように、観察し、記述していく研究方法を、現代の疫学用語では「記述疫学」といいます。 —— 実態を正確に把握するプロセスですね 患者発生マップと各水道会社の給水地域との比較照合を行い、特定の水道会社の給水地域においてコレラ患者が多発していることを突き止めます。このことから、コレラ特有の下痢便の中の伝染性生物(コンタギウム)が井戸水に入り、その汚染された水を飲んだ結果、コレラに感染したという「経口感染仮説」を立てます。そして、スノー先生による衛生局への直談判など、精力的な働きかけにより行政が問題の井戸を閉鎖したところ、流行の蔓延を防ぐ事が出来ました。 —— まさに、疫学的アプローチが解決に導いた事例ですね のちにオックスフォード大学の研究者は、「スノー先生の調査結果が麻酔の採用とロンドンの上下水道システムの根本的な変化を促し、他の都市でも同様の変化をもたらし、世界一般の公衆衛生の大幅な改善につながった」とも発表しています。 —— 現在も、同様の手法が研究されているのでしょうか 現在は、ジョン・スノー先生の疫学調査手法をさらに発展させた「実地疫学調査」が採用されています。記述疫学、仮説の設定までは同じ手法ですが、その次に、仮説で設定された危険因子が感染症の発症にどのくらい関連性があるかを検証していきます。これを「解析疫学」といいます。統計学的に有意であるかどうかを検証し、遡り調査を通じて原因を究明しています。 —— いよいよ統計学が登場するわけですね 疫学と統計学 —— 疫学で用いられる統計学について、分かり易く教えていただけますか 臨床医学では、「病原体がある感染経路によって発症」するという現象が重要です。一方で疫学では、「リスク因子への曝露によって感染が起こる」という現象に着目します。曝露というのは、問題となる因子に,特定の集団あるいは個人が晒されることです。「リスク因子に曝露された集団は感染しやすいが、曝露されなかった集団は感染しにくかった」という結果が得られた場合には「リスク因子は感染に関連がある」といえます。 引用:疫学調査を基にした院内感染症対策(加來先生著) 別の見方で、「感染している群のヒトは、感染していない群のヒトに比べて、リスク因子への曝露の程度が強い」ことが分かった場合には、「感染とリスク因子とには関連性がある」といえそうです。このように、感染症の疫学では、2つの集団を比較することでリスク因子への関連性の強さを算出します。 —— ひとつひとつの事象を注意深く検証していくのですね その関連性の強さが「統計学的に有意」であるかを検証します。「有意」とは、確率・統計学の用語で、「確率的に偶然であるとは考えにくく、意味があると考えられる」レベルであるかどうかを検証することです。偶然に起こるような稀な現象は5%くらいの確率で起こってもおかしくないと考えられています。ですから、得られた結果が95%の確率で起こっている現象は、偶然に起こったものとは考えにくい、すなわち「本当らしい」と考えるのです。これが「95%の信頼区間」や「5%の有意水準」の考え方です。感染症の疫学では2つの群を比較して検証していきますが、理解を深めるために、ハドリアヌス帝政の古代ギリシャ時代に遡り、哲学者エピクテトス(西暦50~135年頃)を紹介しましょう。—— 古代ギリシャの哲学者ですか! 哲学者エピクテトスに学ぶ 画像引用:Wikipediaエピクテトス(パブリックドメイン) エピクテトスは、ニーチェやパスカル、夏目漱石に至るまで、時代を超えて世界中の識者に影響を与えた人物として知られています。その彼の残した名言に、 「人は物事をではなく、それをどう見るかによって思いわずらうのである」「人間を不安にするのは物事そのものではなく、物事に対する見解が人間を不安にさせるのである」 というものがあります。これは、「実際にそうであること」と「そのように見えること」には乖離があると言っているわけです。これを表したのが以下の表1です。 現象の捉え方は、4象限に分けることができます。この表を「2×2表(Two by two table)」と呼びます。 「頭が良さそうにみえるが、実際に頭の良い人ではない」「貧しそうにみえるが、実際にはお金持ちである」 このようなことは決して珍しいことではありません。疫学において、事実を正しく見分けることができないと、その後の公衆衛生方針の意思決定をミスリードしかねません。この概念を、臨床医学における検査による診断(検査診断学)に当てはめてみると、表2のようになります。 a … 真の陽性(検査に陽性で、実際に病気である)b … 偽陽性 (検査は陽性であるが、実際には病気でない)c … 偽陰性 (検査では陰性であるが、実際には病気である)d … 真の陰性(検査で陰性であるし、実際に病気でない) —— 偽陽性などの単語は、昨今の感染状況に関する報道で耳にしたことのあるかたも多いかもしれませんね コロナ渦では多く登場している単語ですね。検査の信ぴょう性を判断する指標には、「感度」と「特異度」という単語が登場します。 —— PCR検査の感度についての記事を読んだことがあります 議論されていましたね。PCR検査は、感度70%程度、特異度99.9%程度と言われています。感度と特異度について説明していきましょう。 感度と特異度検査診断学でいう「感度」とは、「ある疾患を有する人において、検査で陽性と判断される割合(真の陽性率)」と定義されています。疾患「X」と分かっている患者100名にこの検査を行ない、95名が陽性だった場合、感度95%ということになります。 —— 表2の「a」にあたる割合ですね 一方で「特異度」とは、「健康な人において、検査で陰性と判断される割合(真の陰性率)」と定義されています。疾患「X」以外の患者100名に検査を行ない、3名が陽性であった場合、特異度97%ということになりますね。 —— こちらは「d」の割合ですね 感度が高い検査は、患者を正しく陽性と判断できる検査なので、言い換えれば偽陰性が少なくなる検査です。一方で、特異度の高い検査は、健康な人を患者と誤診することが少なくなります。 —— どちらも重要な指標ですね また、ある集団において病気を有する人が占める割合を「有病率」といいます。有病率は、ある一時点で、特定の疾患の全患者数を、その時点で当該疾患を患う可能性のある人の総数で割ったものです。例えば、1,000人に対して「Y」という検査を実施した場合を2×2表にしてみましょう。各指標は、以下の割合だったと仮定します。 被験者:1,000人有病率:10%感度 :70%特異度:99% 検査で陽性だった人の中で、実際に病気である人の割合を「陽性的中率」といいます。このケースでは、陽性者全体(79人)のうち、陽性且つ病気であるのは70人なので、「陽性的中率は89%(70人÷79人)である」といいます。この値も検査の精度を検証するうえで非常に重要です。 —— 感度、特異度、陽性的中率の3つが大切だというわけですね 検査では、ある数値以上の値が得られたら「陽性」、それ以下の値であれば「陰性」としますが、これを「カットオフ値(cutoff value)」といいます。理想的な検査は、「検査陽性者は全員疾患があり、検査陰性者は全員疾患がある」という状態ですが、実際には偽陽性や偽陰性があります。そのために設定するのがカットオフ値です。カットオフ値は、どの位置に設定するかによって、それぞれの値は大きく変動します。感度を上げるよう(できるだけ疾患者を把握するように)にカットオフ値を下げると、偽陽性が増えて特異度が下がる。特異度を上げるよう(できるだけ健常者を除く)にカットオフ値を上げると、偽陰性者が増えて感度が下がる。といったように感度と特異度にはトレードオフの関係にあります。 —— カットオフ値の位置は、その後の方針に大きく影響しそうですね 何に重きを置いて検査を実施するかによって、感度と特異度のバランスが変わってくるわけです。だいぶ専門的な話になってきましたね。より詳細に踏み込むのは続編に譲るとして、今回はこのくらいにしておきましょうか(笑) —— そうですね(笑)脳がオーバーヒートしてしまうかもしれません では、今回はここまでにしましょう(笑) —— 先生、今回も貴重なお話を有難うございました。 (監修:防衛医科大学校 防衛医学研究センター 広域感染症学・制御研究部門 加來浩器先生) 参考資料 参考文献アウトブレイク調査のススメ(防衛医科大学校 加來浩器教授 著)疫学調査を基にした院内感染症対策(防衛医科大学校 加來浩器教授 著) 参照URLWHO Coronavirus(COVID-19)Dashboard疫学用語の基礎知識「疫学」(一般社団法人日本疫学会) 「delfino施設まるごと抗菌」とは 感染症対策製品「delfino(デルフィーノ)」は、「感染ゼロをめざして」というコンセプトのもと、光触媒(酸化チタン)、抗菌触媒(銀)、三元触媒(プラチナ)などの触媒を組み合わせることで、それぞれの触媒反応が持つ効果を相乗的に発揮させながら、それぞれの弱点を補うという発想の抗ウイルス・抗菌・防臭剤です。専用噴霧器によって、デルフィーノをμ(ミクロン)単位の粒子で噴霧、密閉空間に充満させていくことで、壁面だけでなく、カウンター、チェア、デスク、キャビネットなどのあらゆるものを抗ウイルス・抗菌コーティングして、施設内での感染リスクを軽減します。お問い合わせは以下のリンクから。 お問い合わせ
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感染症は、不安や偏見と一緒にやってくる
コロナ禍の第三波が訪れ、各地域で一日の感染者数の記録を更新しています。政府もGoToトラベルの見直しなど、実施中の政策の軌道修正を検討しているようです。あらためて、基本に立ち返り個人個人で行なう防御策を徹底していきましょう。先月も掲載させていただきましたが、埼玉県教育委員会の広報内容を再度引用させていただきます。 ・家庭と学校が連携した健康管理・マスクの着用(飛沫、マイクロエアロゾルの防止) ・3つの密の回避の徹底 ・手洗い等の徹底(接触感染の回避)・環境衛生管理の徹底(引用:学校における感染防止対策 ~埼玉県教育局の取り組み~ ) これらを徹底していくことで、不自由のない日常が戻る日も早くなるはずです。少し苦しい時期が続きますが、力を合わせて乗り切っていきましょう! さて、今回のコラムでは、感染症そのものではなく、「感染症と一緒にやってくる存在」についてお伝えしていきたいと思います。感染症で怖いのは、決して身体に作用するウイルスの脅威だけではないのです。気を付けなければいけないのは、人が人を傷つけてしまう行為。 誹謗中傷、差別・偏見 です。世界中で、そして日本でも、過去にいくつもの悲しい事例があり、感染者やそのご家族などを精神的にも追い詰めてしまうといったことがありました。差別や偏見によって感染したことを言い出しにくい雰囲気は、罹患者本人の重症化・蔓延に繋がるのみならず、感染症の実態把握の大きな妨げになり遠ざけ、感染拡大の範囲をも急加速させる結果を招いてしまいます。今回は、過去にあった出来事をご紹介しつつ、感染症の重大な二次被害を防止できるよう啓蒙していきたいと思います。ぜひ最後までお目通しください。 感染症を正しく理解し、正しく恐れる 感染症は、「得体の知れないもの」と決めつけてしまうことで、必要以上に怖がってしまったり、他者を傷つけてしまう可能性があります。それが、誹謗中傷、差別・偏見が生まれる原因に。このことは、どのような感染対策をも意味をなさなくしてしまいます。 日本国内でも、医療従事者をはじめとしたエッセンシャルワーカーの皆さんや、そのご家族に対する差別・偏見も少なくないようです。死と隣合わせで感染者に対応しておられる医療従事者の方々への差別、本当に残念でなりません。まさに、必要以上に恐れてしまったことによる他者攻撃の結果ではないかと思います。 新型コロナウイルス感染症に感染した患者の増加に伴い、医療機関においても感染患者の診察に当たる機会が増えており、感染患者を診たというだけで、医師を始めとした医療従事者やその家族がいわれなき誹謗中傷を受ける事例が各地で散見されている。(日本医師会ニュースポータルサイト 城守常任理事コメントより) 日本医師会では、正しい理解を推進していくためのいくつかのメッセージ動画を公表しています。以下に2つご紹介させていただきます。(日本医師会Webサイト「うつさない!うつらない!~新型コロナウイルス感染症~いま私たちにできること」より) 京都大学 iPS細胞研究所所長 山中伸弥先生俳優 斎藤 工さん 正しい情報を入手することで恐れ過ぎず、結果としてむやみに人を攻撃しない。こういうことが、昨今のコロナ禍を脱出する第一歩かもしれません。 繰り返してはいけない、差別・偏見の歴史 ここからは、過去に起きた悲しい差別・偏見の実際の事例をふたつご紹介いたします。 ハンセン病 引用:岡山観光WEB瀬戸内の負の遺産を世界遺産へ。史跡をめぐりながら学ぶ長島愛生園見学ツアー ハンセン病は、「らい菌」感染に起因する感染症。世界では、古くは紀元前6世紀のインドの古典やキリスト教の聖書、日本では8世紀に編纂された「日本書紀」にその記述があります。感染すると手足などの末梢神経が麻痺したり、皮膚にさまざまな病的な変化が起こることもあります。1931年の日本では、ハンセン病は、「感染力が強く」「遺伝病であり」「不治の病である」という誤解が蔓延、政府は「らい予防法」を施行、ハンセン病と診断された方々は「療養所」とは名ばかりの施設に強制的に入所させられ、生涯、そこから出ることは許されませんでした(この隔離政策は1996年まで継続されます)。その間、親や兄弟姉妹と一緒に暮らすことや、結婚しても子どもを生むことも、実名を名乗ることもできず、亡くなっても故郷の墓に埋葬されることも叶いませんでした。また、患者の出た家を真っ白になるほど消毒をしたり、国民を指導して「無らい県運動」を進めるなどして、ハンセン病は国の恥、恐ろしい病気だという誤った意識が国民に植え付けられました。終戦後の1947年には治療薬が開発、ハンセン病は治る病気になったわけですが、一度植えつけられた差別意識は簡単にはなくなりませんでした。日本国憲法下においても、「らい予防法」は廃止されず、強制隔離政策や「無らい県運動」を継続したため、ハンセン病患者と回復者への偏見・差別による人権侵害が助長されることになりました。実際のハンセン病は、感染力が弱く、治療も可能です。治療薬開発後の「らい菌」は、多剤併用療法により数日で感染力を失い、他人に感染させることがないため、治療中でも治療終了後も通常の社会生活を送ることができます。 エイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群) 「リンパ球に結合するHIV-1」Wikipediaヒト免疫不全ウイルス ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が原因の感染症。3?10年ほどの間に免疫機能が徐々に低下し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を発症します。免疫機能の低下に伴い、通常かかりにくい感染症を発症しやすくなる。日本では1985年に感染者が認知されました。過去には、「握手や会話で感染する」「咳やくしゃみで感染する」「日用品の共用で感染する」などの誤った感染経路に関する情報の流布により、感染者への誹謗中傷、差別や偏見が横行しました。また、特定の人種や職業の方々がエイズに感染しやすい、など感染源をある集団に特定するといった情報が流布されたことで、人種差別に発展するケースもみられました。あるアメリカ人女性は、次のように語っています。 「支援グループやソーシャル・ワーカーといった頼れる人が誰もいなかったので、私はでるだけ目立たないよう、世間から引きこもっていました。でも、それでもだめでした。私の身内であるにもかかわらず戸口に押しかけ、自分たちの街にエイズは不要だと言って、私を殴ろうとしたんです。エイズにかかった私は、まるで人間扱いされなくなってしまった。私が病気そのもので、感情など一切持たない存在とされ、何かを計画したり、目標を持ったり、貢献したりするチャンスをことごとく奪われてしまったのです」(引用:公益財団法人日本学校保健会 エイズはなぜ拡大するのか) 実際のHIVの感染経路は、性的接触、血液感染、母子感染の3つに限られます。握手をしたり、日用品を共用したり、プールやお風呂に一緒に入ったりするといった、日常生活の接触で感染することありません。咳やくしゃみなどで感染ることはなく、日常生活の中では性的接触以外で感染することはありません。 まとめ 今回は過去の痛ましい過ちを教訓に、感染症を正しく理解し、他者に対して思いやりをもって感染症に向き合っていきましょう、という内容をお伝えしてきました。感染症は、誰にとっても身近な問題 なのです。いつ感染症に罹患するのかは誰にも分かりません。「うつらない、うつさない」ということを、私共や皆さんが意識・実践し、感染症に対して過大に恐れることなく、他者への思いやりを忘れないこと、こういうことで一体感をもってコロナ禍にこれからも立ち向かっていけるのではないかと思います。 「delfino施設まるごと抗菌」とは 感染症対策製品「delfino(デルフィーノ)」は、「感染ゼロをめざして」というコンセプトのもと、光触媒(酸化チタン)、抗菌触媒(銀)、三元触媒(プラチナ)などの触媒を組み合わせることで、それぞれの触媒反応が持つ効果を相乗的に発揮させながら、それぞれの弱点を補うという発想の抗ウイルス・抗菌・防臭剤です。そのデルフィーノを、専用噴霧器によってμ(ミクロン)単位の粒子で噴霧、密閉空間に充満させていくことで、壁面だけでなく、カウンター、チェア、デスク、キャビネットなどのあらゆるものを抗ウイルス・抗菌コーティングして、施設内での感染リスクを軽減します。お問い合わせは以下のリンクから! お問い合わせ 参考URL 国立国際医療研究センター COVID-19の重症化を予測する液性因子の同定埼玉県医師会Webサイト 家庭・職場・学校などにおける感染予防対策研修動画(学校における感染防止対策 ~埼玉県教育局の取り組み~)公益財団法人日本学校保健会 エイズはなぜ拡大するのかdelfino施設まるごと抗ウイルス・抗菌
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感染症を正しく恐れる(防衛医大 加來教授インタビュー)
(※本記事は、2020年9月30日のインタビューをもとに作成しています) 少しの間、お休みさせていただいておりましたが、DELMAGAによる情報発信を再開させていただきます。ファンの皆さまには、長らくお待たせいたしましたことを、心よりお詫びいたします。今回は、記念すべき復活号ということで、日頃監修いただいている防衛医大の加來先生に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や、感染症への心構えなどについてインタビューさせていただきましたので、シェアさせていただきたいと思います。 防衛医科大学校 加來先生インタビュー ――まず始めに、新型コロナウイルス感染症について、最近になって分かってきたことなどはあるでしょうか感染症は、患者数・重症度の指標と、流行(感染拡大)の可能性の2つの指標で評価することが重要です。 加來教授の制作資料より抜粋 重症度については、医療機関の力によるところが大きいと言えます。9月24日には、国立国際医療研究センターからよいニュースが公表されました。重症化患者の傾向に関する報道ですが、初期段階で重篤化し易い傾向を示す数値の存在が明らかになったというものです。これによって重症化を阻止できれば患者数・重症度の指標を低く抑えることができます。 国立国際医療研究センター COVID-19の重症化を予測する液性因子の同定 流行の可能性については、実効再生産数(患者が次の患者の原因となる数)を抑えるべく、クラスターの発生を阻止するための対策を続けていくことが重要です。 ―― 素晴らしい成果ですね。初期段階で治療方針を考える重要な参考になりそうです医療機関は、そういう研究を一所懸命やっていて、成果が出始めていますよね。一方で、感染拡大については引き続きひとりひとりの意識や行動によるところが大きいです。基本に立ち返って、三密を避ける、手洗いの徹底など継続してほしいと思います。埼玉県医師会のWebサイトに掲載されているWeb動画が、よくまとまっているので参照してみてください。 埼玉県医師会Webサイト 家庭・職場・学校などにおける感染予防対策研修動画 この中に「学校での取組み」が教育委員会から発表されていますが、とても要点が押さえられています。内容は、難しいことは何も言っておらず、基本中の基本をおさえておこう、と言っていますよね。 ・家庭と学校が連携した健康管理・マスクの着用(飛沫、マイクロエアロゾルの防止) ・3つの密の回避の徹底 ・手洗い等の徹底(接触感染の回避) ・環境衛生管理の徹底 引用:学校における感染防止対策 ~埼玉県教育局の取り組み~ 感染症のもたらす負の循環 ―― 新型コロナウイルス感染症は、情報が錯そうしたり、恐怖が増長し過ぎている印象があります感染症のイメージというものは、昔もいまも変わっていません。罹患者は、知らないうちに感染し、突然発病する。ときに重症化して死が連想される。人にうつるので申し訳ない気持ちになる。そして、うつされた人は、非常に迷惑に思う、という具合です。 お話をもとに図式化したイメージ 恐怖・不安から警戒へ、それが偏見・差別・風評につながり、周りへの不信、不満、政府批判などが生じます。やがてこの状況に疲弊し、あきらめ、無関心、投げやり、無視、無頓着、といった感情に変化していきます。これがひたすら循環するのです。 昔は、地域住民の1/3が死亡してしまう(中世ヨーロッパのペストや近代ロンドンのコレラなど)、などといったことが珍しくはありませんでした。現在は、感染症の成り立ちが分かってきています。それらを把握し、感染源の撲滅、感染経路の遮断、自然免疫力の増加(ワクチンなど)など、対処することができます。正しく感染症を恐れ、対処することが大事です。 誹謗中傷や、差別、偏見をなくそう ―― 得体が知れない、と決めつけてしまうことで必要以上に怖がってしまったり、他者を傷つけてしまう可能性があるのですね感染症において、注意しなければならないのは、誹謗中傷、差別・偏見です。このことは、どのような感染対策をも意味をなさなくしてしまいます。 差別を受けたくない、という理由で感染症の発生そのものが隠蔽されてしまうと、結果、重症化と蔓延を招きます。また、隠ぺいするようになると実態の把握もできず、感染拡大が抑止できません。かつてのハンセン病、HIVのような差別が広まった事例を繰り返してはいけません。風評被害防止のための啓発は、とても大事なことです。 世界でみたコロナ禍 ~正しく事実を見極めていく~ 画像:WHO Coronavirus Disease (COVID-19) Dashboard より ―― ところで、世界では感染者数が3,700万人を超え、100万人以上の死亡(令和2年10月13日現在)が確認されていますWHOのWebサイトではデイリーで感染者数、死亡者数が掲載されています。 WHO Coronavirus Disease (COVID-19) Dashboard こういったデータをみるときに注意しなければならないのは、各国一律のサーベイランスではないという点です。医療水準、医療費負担の有償・無償の問題、情報公開に関する意識レベル差など、踏まえて考える必要があります。例えば、北朝鮮、トルクメニスタンは感染者数を公表しており、「ゼロ」と発表しています。 ―― 注意しなければならないと分かる、最も分かり易い事例かもしれません一方で、日本国内の公表数字は正確かどうでしょうか。日本では、2つの峰があると言われています。第一峰は、PCR検査の陽性者のみで、症状者が含まれていません。第二峰については、検査方法も多種になっていて、無症状者など含まれています。ここから言えることは、2つの峰は、まるで別の種類であるということです。そして、無症状者の中にも、感染しているが無症状の人、潜伏期間中の人、全くの未感染の人、という3つの種類が存在していることも忘れてはならない点です。 ―― データの見方が変わりますねとはいえ、有症状者のうち、20%程度が中等症以上になり、2~5%くらいが死亡してしまう。これは紛れもない事実です。それは研究を進めるうえで重要な情報となります。データの中から、正しく情報を分析していかなければなりません。 ―― ワクチン開発が各国急ピッチで行なわれています。完成すれば、このコロナ禍は落ち着くでしょうかワクチンは、重症化阻止のためのものであって、感染阻止できるものではありません。それは、インフルエンザワクチンと同様です。それに、新型コロナウイルスのRNAウイルスは、人から人へ感染を繰り返すうちに変異していることが確認されていることや、せっかくできた抗体(免疫力)も時間とともに減少していくというデータも出てきています。したがって何度も感染する人が出てくることが予測されます。やはり、基本的な備えを怠るわけにはいかないでしょうね。 ―― ひとりひとりの意識がやはり重要というわけですね。加來先生、お忙しい中ありがとうございました! (監修:防衛医科大学校 防衛医学研究センター 広域感染症学・制御研究部門 加來浩器先生) 「delfino施設まるごと抗菌」とは 感染症対策製品「delfino(デルフィーノ)」は、「感染ゼロをめざして」というコンセプトのもと、光触媒(酸化チタン)、抗菌触媒(銀)、三元触媒(プラチナ)などの触媒を組み合わせることで、それぞれの触媒反応が持つ効果を相乗的に発揮させながら、それぞれの弱点を補うという発想の抗ウイルス・抗菌・防臭剤です。そのデルフィーノを、専用噴霧器によってμ(ミクロン)単位の粒子で噴霧、密閉空間に充満させていくことで、壁面だけでなく、カウンター、チェア、デスク、キャビネットなどのあらゆるものを抗ウイルス・抗菌コーティングして、施設内での感染リスクを軽減します。お問い合わせは以下のリンクから! お問い合わせ 参照URL 国立国際医療研究センター COVID-19の重症化を予測する液性因子の同定埼玉県医師会Webサイト 家庭・職場・学校などにおける感染予防対策研修動画(学校における感染防止対策 ~埼玉県教育局の取り組み~ )株式会社デルフィーノケア(オフィスまるごと抗菌)WHO Coronavirus Disease (COVID-19) Dashboard
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