東京オリンピック・パラリンピック開催まで、あと一年足らず。限界まで鍛え抜かれた選手たちの世界のプレーを、この目で見るチャンスです!
チケットの1次抽選には、96万人の当選者数に対して約512万人が応募、倍率は1枚あたり約5.3倍という報道もありました。開催期間中は、50万~100万人/日の観戦客が東京を訪れるともいわれます。日本中が大いに盛り上がりそうですね!
さて、そんな胸躍る世界規模のイベント「東京2020」ですが…
大勢が集まるところに、感染症リスクあり!
なのです。今回では、そのリスクについて採り上げていきたいと思います。
「マスギャザリング」とは
オリンピック・パラリンピックのような世界規模の祭典では、前述のように、大勢の観光客・関係者が集まります。このように、
一定期間、限定された地域において、同一目的で多くの人が集合した状態
これを「マスギャザリング」と呼びます。マスギャザリングが形成されている際は、感染症のみならず、さまざまな健康危機管理事態の発生が予期されます。特に、国境を越えてさまざまな人が集まる国際的なイベントにおいては、輸入感染症のリスクが懸念されます。
近年の事例をみると、
2016年のリオ五輪開催時
…WHOがジカウイルス感染症を国際的な脅威に対する公衆衛生上の緊急事態であると宣言。
2017年9月のバスケットボールクラブカップ開催時
…マダガスカルで発生した肺ペストが首都や港湾都市で拡大、当時開催されていたインド洋チャンピオンクラブカップのバスケットボール大会関係者の死亡も報じられました(同年11月20日時点で2,348名が感染、うち202名が死亡)。
2018年2月の平昌冬季オリンピック開催時
…ノロウイルスが感染拡大。スイス選手団2名、および五輪の警備員94名を含む、200人以上が感染と報じられました。
このように、近年だけをみても、国際大会での高いリスクをうかがい知ることができます。
2019年以降に国内開催される国際イベント
2025年までに、日本国内では以下のイベントの開催が予定されています。
このように、いくつかの大型イベントが予定され、外国人観光客の訪日が見込まれています。2019年6月に開催のG20では、約3万人の外国人が訪日したといわれていますが、このときは輸入感染症の流行は見られませんでしたが、G20で訪日したのは主にVIPと報道機関。相対的に健康管理には意識が高い層であると考えられるため、感染症の脅威は低かったと考えられますので、国際大会との比較は早計かもしれません。
国際大会で注意すべき感染症/日本政府の取り組み
国際大会に際しては、政府や専門家らによる感染症対策が綿密に進められていますが、特に輸入感染症においては、その都度リスク評価、対策が必要です。
●世界中からの訪日客が見込まれ、想定される国・エリアからの輸入感染症リスクの想定
●政府、行政、大会組織委員会、自治体との情報共有など連携の強化
●正確な情報収集、開示、および発信
日本政府でも、パンデミックの防止、間違った情報流布による混乱を来さないように各種体制整備を進めており、既にいくつかの施策が実施されています。例えば、出入国者に対する感染症の注意喚起を強化、入国者に対してはサーモグラフィによる体温測定を行い、必要に応じて問診や検査等を実施するなど水際対策を実施しています。
さらに感染症の情報共有システムを整備。感染症が疑われる患者の報告定義も見直し、医療機関からの報告を徹底すると共に、全国の自治体間で即時に情報共有可能な仕組み作りなどを行っています。
従来より、比較的高度な公衆衛生のシステムを保有していると言われる日本ではありますが、こうした国際大会を機に、そのシステムをさらに昇華させ、大会後にも活かせる遺産として残していくことが期待されます。
東京2020に際して注意すべき感染症
国際大会時に注意すべき感染症のなかで、「東京2020に際して注意すべき」と発表されている感染症を、以下の表でご紹介します(クリックで画像は拡大します)。
一人一人が危機意識を持って予防を!
感染症への防御策として一番大切なのは、私たち一人ひとりが危機意識を持って、しっかり予防対策を行うことです。流行が懸念される感染症の中には、麻しん、風しん、侵襲性髄膜炎菌感染症、百日咳など予防接種で防ぐことができる感染症も。
まずは、ご自身の予防接種歴や罹患歴を見直し、流行が懸念される感染症について抗体があるかどうかを調べることが大切です。もし抗体がなければ、早めにワクチンを接種するようにしてください。さらに、イベント期間中は特にしっかりと手洗いを行い、場合によってはマスクの着用など、基本的な予防対策を心がけることが肝心。国立感染症研究所の感染症速報など、正確な情報を得ようとする姿勢も大切です。
以上、今回は国際大会というマスギャザリングの紹介と注意すべき感染症についてお伝えしました。自国開催という稀有な体験を心から満喫できるよう、ご自身やご家族の体調管理・心構えは万全に、思いっきり楽しみましょう!
(監修:防衛医科大学校 防衛医学研究センター 広域感染症学・制御研究部門 加來浩器先生)
参照URL
国立感染症研究所 感染症疫学センター 東京オリンピック・パラリンピック競技大会における感染症サーベイランスについて