新型コロナウイルス感染症は、感染症法上での位置づけが2023年(令和5年)5月8日に「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる二類相当)」から「五類感染症」になりました。
昨年8月から始まった「第9波」の流行が底をうったのが11月中旬です。しかし11月下旬から再び感染報告数が増え始め、DELMAGAを書いている時点での最新の速報値(2/13発表)によると、2月4日の週までに、11週連続で感染報告数が増加しており、「第10波」の真っ最中です。
今回のDELMAGAは、感染症・疫学がご専門の防衛医科大学校の加來先生に監修いただきながら、現在流行している新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の特徴などを分かり易く整理し、改めて注意しておきたい情報をお届けしていきたいと思います。最後までお付き合いください。
11週連続で感染報告増加
現在コロナウイルスの流行状況は、週1回、全国の約5,000の医療機関から新規感染者数を報告してもらう「定点把握」となっており、2024年1月29日~2月4日の定点あたりの平均患者数は16.15人となっていますが、これはその前の週(1月22日~1月29日)の14.93人に比べると増加傾向となっています。都道府県別にみると石川県の24.52人が一番多く、福島県24.49人、愛知県22.55人、茨城県22.46人と続いていますが、47都道府県のなかで前週から減っているのは山口県、徳島県、富山県、埼玉県、栃木県、岩手県の6県にとどまっているという状況です。年齢群でみると10歳未満が最も多く、定点当たり4.69、次いで10~14歳が2.51ですが、60歳以上の高齢者では1.00を下回っています。一方で入院患者の届出数は、全国で3,400名前後となっており60歳代311名、70歳代843名、80歳以上1,639名となっており、あわせると全体の80%となっています。
厚生労働省は、冬の流行拡大に注意を呼び掛けており、現在のコロナウイルスの流行状況については「特に若い年代で感染者の増加が目立っている。冬休みが終わり、学校が再開したことも要因として考えれるので、学校での感染対策などを引き続き徹底して欲しい」としています。
また、今シーズンはインフルエンザの同時流行が起こっています。インフルエンザA(H1N1株、H3N2株)に加えて、インフルエンザBの流行が確認されています。また、鼻水や鼻づまりなどの症状を主とする花粉症も増え始めています。よく似た症状の患者が増えていることから、医療の現場でも交雑を防ぐなどの工夫が続けられています。
コロナウイルスのいま、これから
コロナウイルスによるパンデミック以降、国内ではアルファ、デルタなど変異株が猛威を振るっていましたが、いま国内で流行している主流は、民間検査機関からの検体に基づく情報では「オミクロン株の亜種BA.2系統のJN.1が31.5%、JN.1.4 が14.2%、XBBの一種であるHK.3が10.7%」となっており、明らかに世代交代が起こってきています
このJN.1は、WHOも「注目すべき変異株」に分類しているウイルス株です。
JN.1は「免疫逃避」という一度できた抗体をすり抜ける能力が増しており、2度3度と感染してしまう可能性があります。また、ヒトからヒトへの感染力も高くなっていると言われていますが、重症化は従来のXBB株と変わらないと報告されています。
わたしたちにできること
パンデミック時の緊急事態宣言下においては政府の専門家会議より「新しい生活様式」という方針が打ち出されましたが、現在はコロナウイルス感染症が五類感染症となり、わたしたちを取り巻く状況も変わっています。
ただし、感染症対策の基本は大きくは変わりません。誰にでも感染してしまう可能性はあり、誰にでも周りにうつしてしまう可能性があります。可能性を意識して、思い込みではない正しい知識をもとに自分でできる行動があります。
<わたしたちにできる基本的な5つの感染症対策>
(1) 体調不安や症状があるときは自宅で療養するか医療機関を受診する
(2) その場に応じたマスクの着用と症状がある場合の咳エチケット
(3) 3蜜(密閉、密集、密接)対策と空間の換気
(4) 手洗いの励行
(5) 適切な運動、睡眠、食事
(1)体調不安や症状があるときは自宅で療養するか医療機関を受診する
体調不良や発熱などの症状がある場合には、無理せずに自宅で療養してください。早めに市販薬で症状を緩和させることも重要ですが、基礎疾患をお持ちの方はぜひ医療機関を受診して、きちんと診察を受けてください。過度な受診控えは健康上のリスクを高めてしまう可能性があります。
(2)その場に応じたマスクの着用と症状がある場合の咳エチケット
新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの流行期に自身が罹患しないために、
・通勤ラッシュ時などの混雑した電車やバスに乗るとき
・何らかの呼吸器症状のある人のお世話をしたり、面会したりするとき
などはマスクの着用が効果的です。
自身が知らないうちに広げないために、
・咳やくしゃみなどの症状があるときは、マスクを装着します。
これは咳エチケットとしてのマスク装着です。
・医療機関の受診時や高齢者施設などを訪問するときも、マスクを装着します。
新型コロナウイルス感染症が無症状の感染期にも人への感染力があるからです。
・高齢者、持病のある人、妊婦さんなどと会うときは、自身の体調管理を厳重に行ってください。
大切な人を守るためです。
ただし、マスクの着用については、五類移行前の令和5年3月13日より、本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう配慮が必要です。上記の基準を参考にして、皆さん自らが正しい判断をされるのを期待いたします。
(3)3蜜(密閉、密集、密接)対策と空間の換気
飛沫感染やエアロゾル感染のリスクを下げる方法として、3蜜対策は基本となります。その中で換気が可能であればすぐにでも取り入れてください。こまめに窓を開けて行う自然換気も効果的です。どうしても換気ができないような部屋については、空気清浄機を利用することをおすすめします。
(4)手洗いの励行
手洗い、手指消毒は感染対策の「基本のキ」です。五類以降は、社会全体であまり重視されていない傾向があるようなので心配しています。接触予防のための対策としては、きわめて有効ですので、“コロナで学んだこと”の一つとして継続してください。
(5)適度な運動、睡眠、食事
感染症対策に限ったことではありませんが、健康維持のため、適度な運動、睡眠、食事はとても重要です。リモートワークの広がりにより在宅で過ごす方も増えましたが、日常的にバランスの良い食事を摂り、適度な運動を行い、ぐっすり睡眠をとりましょう。
お子さまが感染してしまったら
感染対策に注意をしていても感染してしまうことがあります。
お子様さまコロナウイルスに感染してしまった時のポイントをまとめます。
【お子さま(コロナウイルスに感染された方)】
お子様は、大人に比べてさまざまな呼吸器感染症に罹患してしまいます。症状からは判断できないことが多いので、かかりつけの医療機関を受診させてください。何らかの症状があるうちは、ウイルスを排出しているものと考えて、家庭内での二次的な広がりに注意してください。
【お世話をする方や同居家族について】
まずは、ご自身の体調に注意してください。
・感染した家族の方が、ウイルスを排出させなくなるまで(おおむね発症後5日程度)の間は、家庭内で感染するリスクがあります。タオルの共有を避けて、寝室や食事をとる場所を分けるようにしてください。
・外出するときには人混みを避け、マスクの着用をおすすめします。高齢者等のハイリスク者との接触を控えるなど、周りの方へうつさないように配慮してください。
<お子さまの観察ポイント>
機嫌、食欲、呼吸のようすなどを観察してください。機嫌がよく、食欲があり、顔色が普通であれば基本的に心配いりません。慌てずに様子を見たうえで、かかりつけ医にご相談ください。
受診を迷った場合、夜間や休日の場合は電話相談窓口(「救急車利用マニュアル」、「こどもの救急」等関係ウェブサイトの参照や「#7119(救急要請相談)」、「#8000(こども医療相談)」など)をご利用してください。
<家庭できる感染対策>
1.こまめに換気をする
共用スペースや他の部屋も頻繁に換気をします。窓を開けて行う自然換気が最も推奨されますが、閉鎖空間の場合には空気清浄機などを利用してください。
2.可能な範囲で部屋を分ける
お世話(看病)する方はできるだけ限定して行い、接触する時間をなるべく短くします。ただ、子どもは自らの体調管理や体調不良の意思表示が十分にできないことがあるので、健康状態のチェックを入念に行います。
3.可能な範囲でマスクをする
お子さま本人を含めて、同居家族全員はできるだけマスク着用します。ただし、乳幼児(小学校に上がる前まで)のマスク着用には注意が必要で、特に2歳未満のお子さまへのマスク着用はやめましょう。
4.こまめに手洗いをする
目に見えて汚れが付いた場合には、石けんで洗い落としますが、そうでなければ(食事の出し入れでお子さんの部屋から出た後など)は、アルコール製剤やそれに類似の手指消毒薬を使用してください。
5.汚れたリネン、洋服は洗濯し、ゴミは密閉して捨てる
さいごに
令和5年5月8日にコロナウイルス感染症の分類が二類感染症から五類感染症になり、季節性インフルエンザなどと同じ分類になりました。パンデミックや緊急事態宣言などの重々しい社会の雰囲気から「コロナとの共生」に向けて、日常生活や経済活動が動き出しています。五類になったとはいえ、コロナウイルスの性質や感染症の特徴が大きく変わったわけではありません。2024年に入り、いまは「第10波」とも「冬の波」ともいわれています。
「自分は大丈夫(かからない)」とか、「前回コロナにかかったが、そんなに(症状が)つらくなかった」など声を聞くことがあります。自分は大丈夫または症状が弱かったとしても、周りにいる大切な誰かに感染症をうつしてしまう可能性もあります。そして、その大切な誰かが、またその周りにいる他の大切な誰かに感染症をうつしてしまうという…というスパイラルも考えられます。基本的な感染症対策は、いまできる対策や簡単にできる対策です。
ご自身のため、周りの方のため、改めて再認識していただければとの思いの中、今回のテーマを取り上げました。
参考URL
・国立感染症研究所 IDWR速報データ 2024年第5週
https://www.niid.go.jp/niid/ja/data.html
・科学技術振興機構 「サイエンスポータル」サイエンスクリップ
https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20240124_g01/
・厚生労働省 感染対策・健康や医療の相談情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kenkou-iryousoudan.html#h2_1
・厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の五類感染症移行後の対応について
https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html
・厚生労働省 新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000922185.pdf
・東京都医学総合研究所 新型コロナウイルスや医学・生命科学全般に関する最新情報
https://www.igakuken.or.jp/r-info/covid-19-info198.html
・NHK 「NEWS WEB」新型コロナ、インフルエンザいずれも患者数増加 対策徹底を
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240202/k10014344831000.html