東京で3年ぶり「はしか(麻しん)」の感染報告
世界各地で流行中の「はしか」の正しい知識と予防策

 

今年に入り、東京や大阪をはじめとして、国内で「はしか(麻しん)」の感染報告が確認されています。感染者は海外で感染したとみられており、海外から観光旅行で日本に来た人や海外へ出張や旅行に行った人が日本に帰ってきてから、感染が確認されています。

日本は、平成22年(2010年)11月以降の「はしか(麻しん)」のウイルス分離・検出状況については、海外由来型のみ確認されており、平成27年(2015年)3月27日、世界保健機関西太平洋地域事務局により、日本が麻しんの排除状態にあることが認定されています。

厚生労働省は「仕事や旅行で海外に行く人などはワクチンの接種歴や抗体の状況を確認したり、必要に応じてワクチンの接種を検討してほしい」と呼びかけています。

 

厚生労働省WEB「麻しんについて」より

 

 

今回のDELMAGAは、感染症・疫学がご専門の防衛医科大学校の加來先生に監修いただきながら、「はしか(麻しん)」の特徴、症状、感染経路、予防策などの情報をお届けしていきたいと思います。最後までお付き合いください。

 

 

 

国内における「はしか(麻しん)」の感染状況

日本は2015年にWHO(世界保健機関)より『麻疹排除状態にある』と認定を受けています。排除達成後も海外からの旅行者を発端とした集団発生、医療機関における集団発生、ワクチン接種率が低い集団における集団発生などがあり、2019年の感染報告数は排除達成後最多の744例となりましたが、2020年以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴う国内外の人の往来制限などの影響もあり、年間届出数は2020年:10例、2021年:6例、2022年:6例となり、人の往来が戻り始めた2023年は28例でした。日本においては、今後も海外からの旅行者がさらに増えていく中で、海外からの麻しん持ち込みのリスクもより高まることが予想されます。


今年に入ってから

2024年は第6週(2月5日~11日)までは、「はしか(麻しん)」の国内での発生はありませんでしたが、第7週(2月12日~18日)に東京都内での1名の発生を皮切りに、各地で散発的に発生がみられるようになりました。これは海外で感染し国内で発症する「輸入事例」が起点となったものです。
いくつか例をあげますと、まずは奈良県での事例です。2月23日に奈良市ではじめて麻疹の届け出がありました。その後、3月6日にこの患者の接触とされた方からの発生がみられました。1人目は外国人旅行者の男性(20代)で2月7日に日本に入国し、その後、奈良市内に滞在中の2月19日に発症。2人目は旅行者の接触があったとされる男性(30代)で3月6日に「はしか(麻しん)」と診断されました。
二つ目は大阪府での事例です。2月29日に東大阪市で男性(20代)の感染が報告されました。この男性は昨年からアジアや中東を旅行し、2月24日にアブダビ発の航空機で関西空港に帰着。航空機に同乗していた乗客8人が相次いで「はしか(麻しん)」と診断されました。

 

NHK WEB「はしか感染者相次ぐ 空気感染も ワクチン接種が必要な世代は…」

 

 

都内でも感染報告

さきほどの二つ目の報告にある感染者と航空機で同乗していた8人のうち大阪市の女性(20代)は滞在先の東京で発症し、都内医療機関を受診して麻疹の感染が確認。東京都は、女性が利用した新幹線や飲食店の具体的な情報を公開し、同じ場所にいた人に対し、体調に異変があった場合は事前に連絡したうえで公共交通機関を使わずに医療機関を受診するよう呼びかけました。これは、感染拡大を防ぐために、曝露された方に対する注意喚起を促して、早期発見・治療に結び付けるために行われたものです。


【東京都による報道発表】
女性(20代)は
・3月7日(木)午後1時45分大阪駅発
東海道新幹線のぞみ24号の6号車に乗車し、午後4時8分に品川駅に到着し下車。
・同日、午後9時から午後11時ごろまで、都内の●●● 銀座コリドー通り店に滞在。
※お店●●●へのお問い合わせはご遠慮ください。

 

「はしか(麻しん)」は感染力が強く、特効薬がない

「はしか(麻しん)」は、

・麻しんウイルスによる発熱性、発疹性の感染症
・感染経路は、主に空気感染(感染したヒトの呼気中に含まれる空気を吸い込んで感染)
・潜伏期間は、通常は10日~12日(早い人で7日から遅い人で21日に発病することもあります。)
・免疫を有さない人に対しては、感染力が非常につよい。
・免疫を有さない人が感染すると、ほぼ間違いなく症状が出るが、ワクチン接種歴が1回の人が感染すると症状がわかりにくい麻疹(修飾麻疹)を発症する。
・特効薬はなく、治療は基本的に対処療法(病気の症状をやわらげる)
・合併症により生死にかかわることがある

改めて、「はしか(麻しん)」についての情報をまとめます。


症状は、発熱、咳・鼻水、全身の発疹

感染後10~12日ぐらいで発症することが多く、38度以上の発熱が2~4日程度続き、咳・鼻水などの気道症状、結膜炎(目の充血、目やに・涙)などが現れ次第に症状が強くなります。これをカタル症状といいます。乳幼児では下痢や腹痛を伴うことがあります。口内の頬粘膜にできる白い斑点(コプリック斑)や全身に発疹が出ます。
一度発熱が下がりかけた後に、再び高熱(39.5度以上になることが多い)が3~4日続き、はしか(麻しん)特有の赤い発疹が出ます。発疹は顔面から出始め、身体全体に広がっていき、その後褐色の色素沈着がしばらく残ります。
通常であれば、7~10日間程度で症状は徐々に回復します。

合併症として、肺炎、脳炎、中耳炎、クループ(のどの奥が感染により腫れてしまうことで、声がかすれたり、息を吸うときにヒューヒューと音がしたりすること)などがあります。
重症な肺炎では、呼吸困難で集中治療室に入院したり、発症1,000人に1~2人の頻度で生じる急性脳炎では、生命に危険が及んだり後遺症を残すこともあります。

幼児、免疫不全などの基礎疾患のあるお子さん、妊婦さんは重症化に注意が必要です。
妊婦さんが感染すると、重症化だけではなく、流産や早産を起こす可能性もあります。

 


感染経路は「空気感染」

はしか(麻しん)の感染経路は、「接触感染」「飛沫感染」だけでなく、「空気感染」でも感染が拡大していきます。

接触感染:ウイルスが付着した手を介して感染が広がる
飛沫感染:咳やくしゃみで飛散したウイルスを含む飛沫で感染が広がる
空気感染:呼吸により飛散し、空間を漂うウイルスで感染が広がる

「空気感染」は、集団の場で1人の発症があった場合、同じ空間にいる人は、感染してしまう可能性があります。
麻疹ウイルスは、浮遊中や付着した物質の表面上で最大2時間の活性があると言われており、その間2時間は感染力を持つといえます。

はしか(麻しん)は非常に感染力が強く、免疫のない人が感染すると、ほぼ100%近くの人が発症すると言われています。また感染者1人が免疫を有さない人に何人にうつすかを示す「基本再生産数(R0)」は、12~18人になります。(参考:インフルエンザでは1~2人、COVID-19では2~3人)
発症した患者さんでは、発熱の1日前の無症状期から、すなわち発疹の出る4日前からで感染力があると言われていますので、早期発見と対策を行わないと感染拡大が起こってしまいます。

 

対策はワクチン接種

麻しんは空気感染もするので、手洗い・マスクのみで予防が難しく、最も有効な予防法はワクチン接種になります。麻しんの患者さんに接触した場合でも、72時間以内に麻しんワクチンの接種をすれば発症を予防できるとされていますが、現実的な方法ではありません。やはり事前にしっかりと2回接種しておくことが重要です。
ワクチンの有効性は、インフルエンザワクチンやCOVID-19ワクチンと異なり、感染予防効果が非常に高いです。現在、国内では生後1歳を過ぎた段階で1回目、小学校に入学する前に2回目のワクチンを接種することが定期接種として推奨されています。というのもワクチン1回接種による免疫獲得率は93~95%以上ですが、時間の経過とともにその効果が薄れてしまいます。そこで2回目の接種を行い、免疫獲得率を97~99%以上に高めるという作戦です。初回接種後の反応としては発熱が約20~30%、発疹は約10%に認められますが、いずれも軽症であり、ほとんどの症状は自然に消失します。

 このワクチンの2回接種による定期接種が開始されたのは2006年からですので、年代によって接種回数が1回の人がいます。ワクチンの接種歴は母子手帳などで調べられます。一度,麻しんにかかった人は、強い免疫がのこるため接種は必要ありませんが、症状の程度は個人により異なるので検査を行って麻しん抗体価があるかを確認することが重要です。


お子さまのワクチン接種は、小学校入学前に2回

2006年4月1日以降、麻疹・風疹混合生ワクチン (measles-rubella:MRワクチン)の定期の予防接種が始まり、 2006年6月2日から下記の年齢での2回接種となりました。

第1期、第2期を過ぎてしまうと定期の予防接種として受けられなくなってしまいます。 お子さまの小学校の入学前までに2回目のワクチン接種がすんでいるかを確認し、第2期でまだ麻疹と風疹の予防接種をそれぞれ2回ずつ受けていないお子さまは、 かかりつけ医やお近くの医療機関にご相談ください。
接種医療機関は、お住まいの市町村(特別区)にお問い合わせください。

 

国立感染症研究所 「小学校入学準備に 2回目の麻疹・風疹ワクチンを!」

 

症状がある場合

かかりつけ医や医療機関に電話などで「はしま(麻しん)の疑い」があることや「症状」を伝えて、以降は医療機関の指示に従ってください。
医療機関への移動は、公共交通機関の利用は可能な限り避けてください。

 

参考URL

・厚生労働省 麻しんについて

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html

 

・国立成育医療研究センター はしか(麻疹ウイルス感染症)にご注意ください。

https://www.ncchd.go.jp/center/pr/info/0526.html

 

・国立感染症研究所 麻疹とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles.html

 

・国立感染症研究所 小学校入学準備に 2回目の麻疹・風疹ワクチンを!
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles/221-infectious-diseases/disease-based/ma/measles/590-cpn08.html

 

・東洋経済 ON LINE 東京でも感染者が見つかった「はしか」どう防ぐ?
https://toyokeizai.net/articles/-/740960

 

・Forbes 世界的流行のはしか、自分と周囲を守るために知っておくこと

https://forbesjapan.com/articles/detail/69685

 

・FNプライムオンライン

感染力極めて高い“はしか”都内で確認…東海道新幹線乗り銀座で飲食も 3月にUAEから帰国

https://www.fnn.jp/articles/-/669693

 

・東京都 報道発表資料 保健医療局 「麻しん(はしか)患者の発生について」

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/03/12/07.html

 

 

 

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