令和初の年末年始休暇が明けました。9連休だったかたも多いようですが、皆様いかがお過ごしでしたでしょうか。長期休暇明け、通常モードに戻していくのはなかなか大変。ましてや気温の低いこの時期は身体への負荷も大きいといえます。
そんなこの時期の感染症の代表格は、インフルエンザ。まさに冬季に注意すべき筆頭格の怖い感染症のひとつです。しかし、今回のコラムでは、インフルエンザの陰で、じわじわ報告数を増やす感染症についてお伝えしていきたいと思います。
溶連菌感染症(ようれんきん)
近年、じわじわとその報告数を伸ばしている感染症とは、溶連菌感染症(ようれんきんかんせんしょう)。溶連菌の正式名称は、
溶血性連鎖球菌
といいます。鎖状に連なった球菌(連鎖球菌:Streptococcus)のなかで、血液寒天培地で培養した時にその培地に含まれる赤血球を溶かす(溶血)毒素を出す菌です。そのうち、ヒトに病気を起こす菌の90%以上がA群(Group A)に分類されます。したがって、A群連鎖球菌を、GAS(Group A Streptococcus pyogene)と呼びます。もはや絶望的難易度なので、まずは「ヨウレンキン」とインプットしましょう。
さて、この「溶連菌」。近年の「迅速診断キット」の普及など診断技術の向上が影響している可能性もありますが、報告数が増加傾向にあります。また、その強い感染力から、インフルエンザ同様に登園や登校が停止となる病気。しかし、その症状がかぜと似ているため、医療機関での受診につがなりにくいのです。
溶連菌には、レアケースですが急速に重症化する「侵襲性溶連菌感染症」という病態も。一時期メディアでは「人食いバクテリア」として紹介されたこともありました。また、合併症の可能性もあるのです。
その辛い喉の痛み、ひょっとして、ただのかぜではなく溶連菌ではありませんか?
溶連菌感染症とは
溶連菌感染症とは、溶血性連鎖球菌という細菌が原因で起こる病気を総称して「溶連菌感染症」といいます。
まずは、その概要について以下の表にまとめました。
以下の画像が代表的な症状のひとつ「苺舌」です。発症した初期は、白い苔に覆われた白色舌となり、その後、白い苔が剥がれ、苺舌になります。
引用:NIID 国立感染症研究所 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは
溶連菌感染症は、学童期の子どもがいちばん発症しやすいことはデータが示していますが、幼児や成人であっても発症することがあるので安心はできません。また、繰り返しかかる点も注意が必要なポイント。合併症には、以下のものが挙げられます。
また、溶連菌が重症化すると、全身に発疹が広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」に移行する場合も(画像2参照)。
画像2(引用:NIID 国立感染症研究所 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは)
猩紅熱に移行すると、頬、わきの下、太ももの内側、お尻に発疹が出現、その後、全身に皮膚症状が広がっていきます。全身に広がる際は、多数の発疹が密着した状態になるため、皮膚が赤くなったように見えます。唇の周囲には発疹が少ないため、口の回りだけ青白く見えるのが特徴です。発疹はわずかにかゆみも伴います。回復期になると、腰やお尻の部分の発疹は魚のうろこのような白片状に、手のひらや足の裏の発疹は膜状になり、皮がむけていきます。
このように、溶連菌は放っておくと、合併症や重症化のリスクがあるのです。
溶連菌と普通のかぜの見極め方は?
合併症や重症化のリスクがあるにも関わらず、溶連菌が見過ごされてしまうのは、幼児や成人が発症した場合は典型的な症状が見られないため、医療機関の受診につながりにくいから。その結果、適切な治療が行われず、再発や合併症のリスクがあるのが溶連菌の恐ろしさです。
では、溶連菌と普通のかぜを、見極めるポイントはあるのでしょうか?
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じつは、あります! 溶連菌の発症時には、鼻水や咳症状がほとんど見られません。
鼻水や咳症状がないのに喉が痛い場合は溶連菌を疑い、早めに医療機関を受診することをおススメします。ただし、小さなお子さんの場合、そもそも冬場は鼻水や咳症状を発症しやすく、既に症状が出ている状態で溶連菌に感染することがあります。そのため、一概に「鼻水や咳症状があるから溶連菌ではない」とは言い切れません。
溶連菌流行中、かぜ症状が見られたらすぐ医療機関で受診!
これが最善策!溶連菌の検査では、一般に「迅速診断キット」と呼ばれる器具が使用されます。綿棒で喉の菌をこすり取り、専用の溶液を用いて判定し、結果は5~10分程度で分かります。面倒くさがらずにぜひ検査してみてください。また、受診する前には、「過去に処方された抗生物質などを勝手に飲まない」こともです。飲んでしまうと、正しい検査結果が出ないことも。そもそも抗生物質は医師の適切な指導の下、処方されたときに飲み切るのが原則。自己判断で過去に処方されたものを服用しないようにしましょう。
溶連菌感染症には特効薬がある!
「かぜには特効薬がない」と言われますが、溶連菌には特効薬となる「抗生物質」が存在します。
適切な抗生物質を服用すれば、1~2日後には解熱し、喉の痛みも消失していきます(抗生物質服用後、2日以上経っても熱が下がらないときは、必ず再受診するようにしてください。また、症状が回復しても、完全に菌を退治するためには5~10日間は抗生物質を飲み続ける必要があります)。
さらに、服用終了後の2~3週間後には尿検査を行い、合併症である腎炎を発症していないか確かめることも推奨されています。尿検査の結果、問題がなければ、溶連菌の治療が完了です。
溶連菌の治療経過は、以下の表3の通りです。
表3にあるように、溶連菌の感染力は、発症後の急性期が最も強いとされていますが、抗生物質を服用してから24時間以上経てば感染力が弱まります。文部科学省の出席停止基準では「適正な抗菌剤治療開始後24時間を経て全身状態が良ければ登校可能」とされていますが、地域によって対応が異なるためご注意ください。
~ かぜに、特効薬がないのはなぜ? ~
かぜの原因は80~90% が「ウイルス」。抗生物質は細菌を殺す薬であり、ウイルスにはほとんど効き目がありません。そのため、かぜにはほぼ効果がないのです。かぜの原因となるウイルスは200種類以上ともいわれ、それぞれのウイルスにぴったりの抗ウイルス薬を作るのは、とても難しいことだとされています。そもそも200種類以上のウイルスの中から、病原となったウイルスを特定すること自体が難題です。
以上の理由から、かぜには特効薬がなく、薬が処方されたとしても鼻水や咳を和らげるための対処療法となります。
溶連菌を予防するためには?
溶連菌の感染率は、子どもが感染した場合の兄弟間が最も高確率で、25%という報告があります。また、学校などの集団生活を送る場でも注意が必要です。感染経路は、飛沫感染と接触感染によります。予防方法は、
・罹患者との濃厚接触をさける
・うがい、手洗い
・マスクの着用
といった一般的な感染症対策が基本です。
繰り返しになりますが、溶連菌は、ただのかぜと見過ごされやすい感染症です。発熱や苺舌といった典型的な症状が見られなくても、喉の痛みが続くときは迷わず医療機関で診てもらってください。
(監修:防衛医科大学校 防衛医学研究センター 広域感染症学・制御研究部門 加來浩器先生)
参照URL
NIKKEI STYLE「本物の風邪は受診の必要なし まず3症状をチェック」
病院なび「溶連菌感染症 : 喉の痛み、発熱、舌・身体への発疹
ママスタセレクト「【体験レポート】風邪かと思ったら「溶連菌感染症」!感染したら気をつけるべきポイントは?」
感染症予防接種ナビ「溶連菌感染症 患者数増加 今後の流行拡大に注意」
日本医事新報社「(4)意外と知らない溶連菌感染後腎炎[特集:文献を紐解く 溶連菌のこんな話題]」