長かった猛暑の時期が過ぎ、秋の気配が感じられますね。
暑さが苦手なかたも、ようやく積極的に外に出られそうな気候です。
しかし、季節の変わり目で、天候も不安定なこの時期。
猛暑下の疲れも残っており、免疫力が低下しがちです。
「少し風邪気味かな…」
「そういえば、少し咳が続いているかも…」
そんなかたも少なくないのではないでしょうか?
そこで、今回採り上げるのは、そんな咳症状について。
「いやいや、ただの風邪だから」
と、ご自身で決めつけてやしませんか?
いま、全国的に「百日咳」流行が注目を集めているのです。
青年・成人の感染例が増加!知らない間に感染源に
「百日咳」は2018年1月から新しい届け出基準によるサーベイランスが始まりました。従来は全国の約3000か所の小児科の定点医療機関から週単位で届け出してもらっていましたが、
・報告数が30年前の約1/10に減ってきた
・アウトブレイク発生時、必ずしもその患者さんが定点の医療機関にかかるとは限らない
という背景から、新しい制度では、小児科だけでなく内科の医療機関からも報告する方法に変更されました。すると、2018年の1年間(52週)の累計患者数は11,190人でしたが、2019年に入ってからは、36週時点で11,953人が報告されており、昨年を上回る勢いです。もちろん、これには医師による新しい報告制度の認知が進んだことや、信頼性の高い検査法が多く用いられるようになった背景があるのかもしれません。
えっ?「百日咳」って、乳児がかかる病気だったのでは?
かつてはそのとおりでした。そのため、小児科専門の先生がたから発生状況を報告してもらっていたのです。ところが、
2005年頃から、小児科で子供のついでに受診したその親の世代である20歳以上の患者さんが多く報告されるようになった
のです。新しい制度では、すべての年齢を対象とした報告となっているので、全体像が見えるようになりました。とくにワクチン接種歴との関連をみてみると、いろんなことが見えてきました。
キーワードは「3つの峰」
国立感染症研究所からの百日咳に関する発表によると、
・初回ワクチン接種前を含む0歳児
・7歳ピークにした5歳から15歳未満までの学童期
・30~50歳台の成人
の3つの峰があることがわかります。
百日咳は、
生後1歳未満の乳児が感染すると重症化しやすく、特に生後6ヵ月未満の乳児においては死に至る可能性の高い危険な病気
です。0歳で発症した場合、半数以上の患者が呼吸管理のために入院しているという報告もあります。一方で、青年・成人が感染した場合は軽症であるケースが多く、百日咳と気づかないまま日常生活を送る人が感染を広げています。
4回の定期接種では、予防は不十分
百日咳は、予防接種で防ぐことができる病気です。1950年から定期予防接種に定められ、現在は破傷風、ジフテリア、百日咳にポリオを加えた四種混合ワクチンの一部として、生後3か月から3~8週の間隔で3回、3回目の約1年後に4回目を接種することになっています。四種混合ワクチンは無料で接種することができるため、その接種率は高く、ほぼ100%の子どもが2歳前に1回目の接種を完了、4回目の接種も約83%の子どもが完了しています。
ところが、上図の最も多い峰である5歳から15歳までの年齢層の患者をよく見てみると、4回のワクチン接種歴がある人でした。
なぜ、百日咳の感染が広がっているのでしょう。その理由は…
百日咳ワクチンの効果は、4~12年で弱まってしまう
ためなのです。国立感染症研究所の資料によると、4回目の接種が完了した4年後の5歳には、抗体保有率が20%台まで低下するとあります。
にも関わらず、日本で5回目以上の追加接種が行われてこなかったのは、百日咳ワクチンの副作用が、成長するに伴い強くなってしまうためでした。アメリカなどのワクチン先進国では、11歳までに6回の接種が推奨されています。
日本でも2016年に青年・成人への追加接種の安全性が検証されたことから、日本小児科学会では7.5歳までに5回目のワクチン接種を推奨しています。しかし、その事実はあまり認知されておらず、かつ自己負担での接種になるため、ワクチンでの予防対策が不十分なまま感染が拡大しているのが現状です。
百日咳の症状は
百日咳の症状は、いったいどのようなものなのでしょうか。
百日咳は、感染してから回復するまで、以下3つの経過をたどります。
百日咳は、抗菌薬の投与による治療が可能です。
カタル期に最も感染力が強くなるため、1週間以上、咳が長引いている場合は、医療機関でのお早目の受診をおススメします。
百日咳を予防するためには
百日咳の感染経路は、以下の2つ。
- 患者の咳やくしゃみと一緒に排出された菌を吸い込む「飛沫感染」
- 患者の手についた菌が付着した物を介する「接触感染」
百日咳の感染力は非常に強く、狭い空間を長時間共有する環境に菌が入り込んだ場合、感染は簡単に拡大していきます。その感染力は、百日咳患者のいる家庭内において、免疫のない家族が発症する確率80%以上といわれているほど。そのため、予防にはワクチンの接種が一番。乳幼児のお子さんがいる場合、四種混合ワクチンの接種を必ず行なうようにしましょう。
乳幼児以外のご家族が予防接種を受ける場合は、Tdapと呼ばれる三種混合ワクチン(百日咳、ジフテリア、破傷風)を接種することが可能です。ただし、健康保険適用外となるため、約1万円程度の費用がかかり、接種可能な医院も限られています。家族全員の接種を考えると、大きな出費にはなりますが、生後6カ月未満の患者のうち、半数以上が生後3ヵ月未満児であることがわかっています。
つまり、四種混合の接種が可能な月齢に達する前に、家族から感染してしまうことになります。乳児の命が危険に晒されるかもしれないと考えると、検討する余地は大いにありそうです。乳幼児がご家庭にいなくても、長引く咳は本人がいちばん辛いもの。会議中や商談中などで咳が止まらなくなったときを想像したら、やはり感染を防ぎたいですね。
予防接種以外の対策法としては、マスクの着用、こまめな手洗いといった基本的な対策も重要です。知らないうちに感染拡大の一端を担うかもしれないという事実を重く捉え、感染症を広げないマナー、大切にしたいものですね。
参照URL
AERA「急増する大人の百日咳 知らぬ間に感染源になる危険」
ラジオNIKKEI 「全数把握対象疾患となった百日咳の今日的問題とこれからの対応」